【第六章】学校のICTは「人」の中にある

業務改善

ICTという言葉から、

テクノロジーを使いこなし、

スマートに仕事を進める――

そんなイメージを思い浮かべる人は多いかもしれない。

正直に言えば、

私自身も、

どこかでそんなイメージを抱いていた。

けれど、

学校現場でICT担当を続ける中で、

その考えは少しずつ変わっていった。

学校のICTは、企業のICTとは少し違う

学校のICTは、

一般企業で語られるICTとは、

性質が少し違うように感じている。

もちろん、

システムやツールは重要だ。

けれどそれ以上に、

人と人とのつながりが、

ICTの成否を大きく左右する。

現場の先生たちの声を聞かずに、

ICTがうまく進むことは、

ほとんどない。

机上の空論だけで進めても、

先生たちの賛同は得られないし、

そうなれば、

学校を管理する立場である

管理職の信頼も得られなくなる。

「かゆいところに手が届かない」経験

企業や教育委員会が導入したシステムについて、

「ここがもう少しこうだったらいいのに」

「なんでこの機能がないんだろう」

そう感じたことがある人は、

きっと一度はあるのではないだろうか。

現場で使っていると、

かゆいところに手が届かない

そんな感覚を覚えることは、誰にでもある。

それは、誰かの悪意ではない

こうした使いづらさは、

誰かが手を抜いたからでも、

現場を軽視しているからでもない。

多くのシステムは、

限られた予算や時間、

さまざまな立場の条件の中で、

「今できる最善」として導入されている。

悪意をもって作られているわけではない。

だからこそ、

対立するのではなく、

どう活かすかを考える視点が大切になる。

「入っている仕組み」をどう活かすか

新しいシステムを次々に入れることが、

必ずしも最適解とは限らない。

すでに導入されていて、

追加の予算が大きくかからない仕組み――

たとえば Google Workspace のような環境を、

どう活用していくか。

そこにこそ、

学校ICTの現実的な可能性があると感じている。

活用の答えは、現場にしかない

どんなに優れたシステムでも、

現場に合っていなければ、

使われなくなってしまう。

どう使うか、

どこを変えるか、

何を残すか。

その答えは、

マニュアルにも仕様書にも書いていない。

それを知っているのは、

日々、子どもと向き合い、

校務を回している

現場の先生たちだ。

困りごとが分からない、という正直さ

ICT担当として、

「校務をもっと楽にしたい」

と思っても、

正直、

何が一番困っているのか、

自分にはまだ分からない。

そんな状態から始まることもある。

それでいいと思っている。

こんな聞き方でもいい

私は、

こんなふうに聞くことがある。

「校務をもっと楽にしたいと思っているんですが、

正直、

何が一番困っているのか、

まだ分かりきっていなくて。

どうですか?」

この聞き方は、

答えを迫らない。

正解を持っていないことを、

あらかじめ伝えている。

だから、

相手も構えずに話しやすくなる。

ICTが、共通の話題になる

ICTについては、

「詳しくない」「自信がない」

と感じている先生も多い。

だからこそ、

「タブレット、使えていますか?」

「ICTを使う場面で、

何か困っていることはありませんか?」

こうした問いかけが、

自然な会話のきっかけになる。

コミュニケーション能力が

特別高くなくても、

ICTは共通の話題になってくれる。

出てくる声は、学校の現在地

そこで出てくる声は、

その学校が今、

どこで立ち止まっているのか、

どこに可能性があるのかを

教えてくれる。

すぐに解決できなくてもいい。

一気に変えなくてもいい。

少しずつ、現場にフィットさせていく

学校のICTは、

一気に完成するものではない。

  • 一つ試して
  • 使ってみて
  • 合わなければ戻して
  • 少し直す

その繰り返しだ。

本当に大切なのは、

派手さやスピードではなく、

続けられる形で前に進むことだと思っている。

解決できない声も、前進である

もし、

「これは今は難しいな」

と感じる声があったとしても、

それ自体が前進だ。

解決が難しいと分かったことは、

これまでになかった

大切な情報だからだ。

その声は、理由とともにぜひメモとして残しておいてほしい。

ICT担当をやってよかったと思える理由

ICT担当をしていてよかったと感じるのは、

ツールを導入したからでも、

詳しくなったからでもない。

人の声に触れ、

学校全体の流れを少し整えられた

と感じられる瞬間があるからだ。

ICT担当は、

テクノロジーを見せる仕事ではない。

人と人をつなぎ、

今あるものを活かしながら、

学校を前に進めていく仕事だ。

これからICT担当になる人へ

不安があって当然だ。

分からないことも、

迷うことも、

たくさんある。

でも、

現場の声を聞き、

一つずつ整えていけば、

学校は確実に変わっていく。

完璧でなくていい。

少しずつでいい。

おわりに

学校が静かに回っているとき、

そこには必ず、

誰かの「整え」がある。

ICT担当は、

目立たないかもしれない。

でも、

その仕事は確実に、

学校を支えている。

その役割を担っていることを、

どうか誇りに思ってほしい。

あとがき

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

この本を書き終えてあらためて思うのは、

ICT担当の仕事は、

決して「すごいこと」をする仕事ではない、ということです。

むしろ、

余計なことをしないために考え続ける仕事

なのかもしれません。

私の勤務校では、

教員一人あたりの残業時間が、

平均で約40時間から、

現在は15時間ほどにまで減っています。

この数字は、

ICTだけの成果ではありません。

多くを求めすぎない簡略化。

日常的な職員同士の会話。

「ここまでで十分だよね」と言える空気。

そうした土台があって、

初めて働き方は変わっていきました。

その中で、

ICTが確実に力を発揮しているのは、

連絡や情報共有の部分だと感じています。

  • 伝え直しが減る
  • 探し物が減る
  • 確認のための時間が減る

ほんの小さな変化ですが、

それが積み重なることで、

時間だけでなく、

気持ちの余裕も生まれていきました。

この本で伝えたかったのは、

「ICTをもっと使おう」という話ではありません。

  • すべてを自分で抱えなくていい
  • 完璧でなくていい
  • 80%で返していい
  • 迷いながらでいい

そんなふうに、

続けられる形で関わることの大切さです。

ICT担当は、

学校の中で少し特殊な立場に置かれがちです。

分からないことを分かっている前提で見られたり、

何でも相談されてしまったり。

だからこそ、

一人で抱え込まないでほしい。

ICT担当が潰れてしまうことは、

学校にとっても、

子どもたちにとっても、

決して望ましいことではありません。

学校のICTは、

ツールやシステムで動いているのではなく、

人の関係性の上に成り立っている

と、私は思っています。

現場の声を聞き、

立場の違いを想像し、

少しずつ調整していく。

派手ではないけれど、

確実に学校を支える仕事です。

もしこの本を閉じたあと、

あなたが職員室で、

「校務をもう少し楽にしたいんだけど、

正直、何が一番困ってるのか

まだ分からなくて。どうですか?」

そんな一言を、

誰かに投げかけてみようと思えたなら。

それだけで、

この本を書いた意味はあったのだと思っています。

ICT担当の仕事は、

目立たないかもしれません。

でも、

学校が静かに回っているとき、

そこには必ず

誰かの「整え」があります。

その一人として、

今日も学校を支えているあなたに、

心からの敬意を込めて。

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