ICTで救えない「困り感」とどう向き合うか〜算数科・ICT主任として見つめる三つの課題〜

授業

教育現場ではICTの力がどんどん広がり、授業や校務の効率化、個別最適な学びなど、大きな変化を感じます。

一方で、どれだけICTが便利になっても、子どもたちの“困り感”がすべて解決されるわけではないことを、現場の中で強く感じています。

私は算数科の担当であり、ICT主任として校内全体にも関わっていますが、だからこそ“ICTではカバーしきれない課題”に気づく場面があります。

この記事では、特に算数の授業で感じている三つのテーマについて、お話ししたいと思います。

電卓の使用 ― 思考の時間を取り戻すために

学習指導要領のもと、子どもたちが学ぶ内容は年々増え、求められる思考の深さも広がっています。

「説明しよう」「考えよう」という課題が増える一方で、実際には じっくり考えるための時間が足りないことも多いのが現状です。

そして、子どもたちの生活環境も変わっています。

YouTubeやSNSではテンポの速い映像が当たり前で、次々と情報が切り替わります。

そのような世界に慣れている子にとって、

「友達の発表を聞いて、そのあと考える」

という時間は、どうしても集中しづらいものです。

▼ 大人も同じように“展開の速さ”に慣れている時代

以前、校内の若い先生たちとの食事会の中でこんな話が出ました。

「昔の有名アニメをサブスクで観てみたけど、展開がゆっくりで集中が続かず…。漫画のほうがドンドン読めるからテンポが合うんです。」

さらに、「君の名は。」の制作ドキュメントでは、監督が

“現代の視聴者はテンポに敏感だから、1シーンが長く感じないよう編集している”

と聞きました。

大人さえ“テンポの速い情報”が心地よくなっているのですから、

子どもたちも同じであるのは自然なことだと改めて感じました。

▼ 電卓は教科書にも“使ってよい”と書かれている

電卓については、実は教科書の中にも 「使用してよい」 と明記された単元があります。

5年生:人口密度(人口÷面積) 6年生:複雑な図形の面積 6年生:体積(単位換算が入る場合など)

どれも「計算そのもの」ではなく “考えること”に時間を使わせたい単元です。

つまり、電卓はズルではなく、

思考のための補助ツールとして合理的に位置づけられているのです。

コンパスの習熟 ― 「できない」で終わらせないために

コンパスは3年生で初めて使う道具ですが、45分の授業1回で扱うには少し難しい道具です。

今の子どもたちは「にぎる」動作には慣れていますが、「つまむ」経験が少なめです。

そのためコンパスの針がうまく刺さらず、円が描けないことがよくあります。

紙が破れる 支点がズレる 何度やっても円にならない

こんな失敗が重なると、子どもはすぐに

「もうやだ。できない」

と投げ出してしまいます。

▼ そこで出会った“クルンパス”という救世主

クルンパスは、手首を返したり、細かい指の調整をしなくても、簡単に円が描けるように設計されたコンパスです。

先端に円盤状のキャップがついており、この部分が支点の安定と滑らかな回転をサポートしてくれます。

つまり、

手の持ち方を変える必要なし 指先の器用さもほぼ不要 すーっと滑らせるだけで円が描ける

という“優しいコンパス”です。


ソニック|sonic クルンパス 青

● 授業での効果が衝撃的だった

実際の授業でも、クルンパスは驚くほど効果的でした。

それまでイライラして

「できない!」「もうやめる!」

と言っていた子が、クルンパスを手渡した瞬間、

本当に楽しそうな顔でスーッと円を描き始めたのです。

これには私自身、とても驚きました。

道具が変わるだけで、子どもはこんなにも前向きに取り組めるのか。

これは、子どもたちの「できた」をつくるうえで本当に大きな意味があります。

● キャップを外せば普通のコンパスとしても使える

さらに素晴らしいのは、

キャップを外すと普通のコンパスとしても使える

という“二刀流”な点です。

最初はクルンパスとして使い、

慣れてきたらキャップを外して普通のコンパスに挑戦できる。

子ども自身が「今の自分に合った使い方」を選べるのも、とても魅力的です。

▼ 普通のコンパスを使う場合の“下敷きの工夫”

クルンパスに限らず、コンパスを安定して使いやすくする方法があります。

特に若い先生に知っておいてほしいのが、

「硬い机や下敷きの上でコンパスを使わせないほうがよい」

ということです。

コンパスが苦手な最大の理由は、

針が刺さらず支点が安定しないこと。

そこでおすすめなのが、

◎ 印刷室にある“1番厚い厚紙”をB5サイズに切って下敷きにする

厚紙は

針がしっかり刺さる ズレにくい 穴が開いても気にせず使える

という三拍子がそろった、最高の下敷きになります。

コストもほぼゼロで、効果はかなり大きいです。

昔はノートを下敷き代わりにさせることもありましたが、

普段のノートに穴がたくさん開くのはちょっと気になりますよね。

厚紙なら遠慮なく練習できます。

問題解決型学習 ― 「考えられない子」を置き去りにしない

問題解決型学習自体はとても良い方法ですが、

どんな単元でも形式的に当てはめてしまうと、理解が早い子には合っていても、

考える順序がつかめない子にとっては負担になることがあります。

以前、学校全体で問題解決の流れを“スタンダード化”していた取り組みを見たことがあります。

黒板にはいつも、

問題 → めあて → 自分の考え → 友達の考え → まとめ → 振り返り

という流れが掲示され、ノートも同じ形式で仕上げるようなスタイルです。

意図は理解できますが、

ノートを丁寧に仕上げることが目的化してしまう

という課題も見えてきました。

▼ 本当に困ったとき、子どもは何を見る?

実際には、

  • 教科書
  • 図解
  • インターネット検索
  • ChatGPTなどAI

こうしたもののほうが分かりやすく、すぐ解決できます。

また、算数学習に関する研究でも

「適切なレベルの問題をたくさん解く」方が力が伸びやすい

と言われています。

▼ ノート整理と算数学力は別物

ノート整理の技能を育てたいなら、別で時間を設ければ十分です。

算数の授業ではまず、

自分のレベルに合った問題を 十分な量こなし 「解ける」状態になる

この土台がとても大切だと感じます。

その上で、発展問題やまとめに進んだ方が、子どもも無理なく理解できます。

おわりに

ICTはとても頼もしい存在ですが、万能ではありません。

だからこそ、

「ICTで支えられる部分」と「人の手が必要な部分」

を見極めながら、子どもたちの“困り感”に寄り添っていくことが大切だと感じます。

子どもたちが「もう無理…」ではなく、

「できた!」「分かった!」と笑顔になれる授業を、これからも一緒につくっていきたいですね。

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